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経営ノウハウ

立ち上げ期の赤字に動揺しないための、数字の読み方 — 撤退の材料にする前に確かめる3つのこと

新しい事業や会社を立ち上げた直後、はじめての月次の収支を見て、赤字の数字に胸がざわつく。撤退した方がいいのか、支出を絞るべきか——手が止まってしまう。私たち株式会社隼も複数の事業を並行して立ち上げてきましたが、この場面は何度も通ってきました。

先に結論をお伝えします。立ち上げ期の赤字は、その多くが「異常」ではなく「先行投資の正常な姿」です。 慌てて撤退や緊縮に走る前に、その赤字が何で出来ているかを読む。それだけで、動揺せずに落ち着いて先を見られるようになります。この記事では、私たちが実際に社内の収支サマリで握っている「赤字の読み方」を、3つの視点にして共有します。

立ち上げ期の赤字は、なぜ「正常」なのか

多くの会社は、売上を「実際に仕事をした時点」で記録します。ところが立ち上げ期は、その売上を計上できる段階に入る前に、準備や仕込みのための経費が先に出ていきます。人・道具・場所を整える支出は、売上より先に発生するからです。

つまり、売上を計上する前のフェーズは、経費だけが先に出て、構造的に営業損失になる。 これは何かを間違えているのではなく、先行投資をしている会社の正常な姿です。むしろ立ち上げ期に一切赤字が出ていない方が、必要な仕込みをしていない可能性すらあります。

立ち上げ期の赤字は多くが先行投資の正常な姿であることを示した図。売上を計上する前は経費だけが先に出るため構造的に営業損失になりやすく、先に出た経費は異常ではなく立ち上げに必要なコストだと説明している

私たち自身、ある事業の立ち上げ期には、毎週の収支サマリを社内で共有する際に「この赤字は構造的なもので、撤退判断の材料ではありません」という一文を、あえて数字に添えて回していました。数字だけを裸で渡すと、見た人が反射的に「まずい」と受け取ってしまうからです。赤字の額そのものより、それが正常な赤字か・警戒すべき赤字かという“読み方”を一緒に渡す。ここが立ち上げ期の収支共有でいちばん効いた工夫でした。

月末の予測が実態より大きく出るのは、なぜか

もう一つ、立ち上げ期に動揺を生みやすいのが「月末どうなるか」の予測です。多くの人は、月の途中の赤字を見て、残りの日数ぶんを単純に掛け算してしまいます。今5日で赤字がこれだけなら、30日ではこの6倍だ、というように。

ですが、この日割りの見方は実態より大きく膨らみがちです。立ち上げ期の支出には、月初にまとめて払った一度きりの購入——道具や初期費用など——が混ざっていることが多いからです。それを「毎日続くコスト」として残り日数に掛けてしまうと、ありもしない大きな赤字を予測して、勝手に不安になってしまいます。

月末予測は単純な日割りだと膨らむため赤字の中身を見るべきだと示した比較図。日割りで見ると一度きりの支出も毎日続くと誤解して実態より大きな赤字を予測してしまうが、赤字の中身で見れば一時的な購入1件かどうかを確かめて残り日数に掛けずに済むと対比している

私たちが社内でやっているのは、月末予測の数字を出す前に、その赤字が何で出来ているかを一度ばらすことです。もし赤字の大部分が一時的な購入1件で説明できるなら、それは残り日数に掛けません。「今月はこの1件が乗っただけで、来月は乗らない」と分かれば、予測はぐっと実態に近づき、慌てる必要がなくなります。予測の数字を信じる前に、中身を見る。順番はいつもこちらです。

経営判断の前に、赤字を「構造」か「異常」かで切り分ける

ここまでの2つを踏まえると、立ち上げ期にやるべきなのは「赤字かどうか」で反応することではなく、赤字を切り分けてから経営判断することだと分かります。私たちは、赤字を2つの軸で整理しています。1つは原因が一時的か継続的か。もう1つは影響が小さいか大きいか。

赤字を原因が一時的か継続的か、影響が小さいか大きいかの2軸4象限で切り分ける図。先行投資の赤字・誤差の赤字・見直しの赤字は落ち着いて見てよく、継続的で影響も大きい要注意の赤字だけ早く手を打つべきだと示している

この4つのうち、本当に急いで手を打つべきなのは「継続的に発生し、かつ影響も大きい」赤字だけです。それ以外——立ち上げに必要な大きな先行投資、一度きりの小さな支出、続くけれど額の小さいもの——は、撤退の材料にはなりません。先行投資の赤字は想定内なら慌てない。誤差のような赤字は基本そのままでよい。続くけれど小さい赤字は、積もる前に条件を見直せば足ります。

私たちが立ち上げ期に学んだのは、赤字という一語で反応すると、正常な先行投資まで撤退の材料に見えてしまうということでした。だからこそ、判断の前に必ずこの切り分けを挟む。「これは構造的な赤字か、それとも異常な赤字か」を言葉にしてから、はじめて撤退・継続・投資の判断に進みます。

明日から試せる、赤字の読み方

難しい会計の知識は要りません。立ち上げ期の収支を見たら、経営判断に入る前に次の3点を順番に確かめてみてください。

1つ目は、その赤字が「売上計上前だから出ている」ものかを確かめること。 準備や仕込みで経費が先に出ているだけなら、それは先行投資であって、異常ではありません。この一点を確認するだけで、最初のざわつきの多くは消えます。

2つ目は、月末予測を単純な日割りで出さないこと。 赤字の中に一度きりの支出が混ざっていないかを見て、混ざっていればそれは残り日数に掛けない。予測の数字を作る前に、赤字の中身をばらす習慣をつけます。

3つ目は、経営判断の前に赤字を「構造か・異常か」で切り分けること。 急いで動くべきは「継続的で影響も大きい」赤字だけ。それ以外は撤退や緊縮の材料にせず、落ち着いて見る、と最初に決めておきます。

立ち上げ期は、ただでさえ一つひとつの数字に心が揺れます。だからこそ、赤字の読み方を先に仕組みにしておくと、目先の数字に動かされず、腰を据えて事業を育てられるようになります。

数字の読み方は、任せる相手を選ぶときにも効く

最後に、事業の運用やバックオフィスを誰かに任せようとしている方へ。この「赤字の読み方」は、任せる相手を見極めるときにもそのまま使えます。

数字に強い会社は、赤字の数字を出すだけでなく、それが構造的なものか異常なものかを、その場で言葉にして説明できます。 逆に「赤字なので厳しいですね」としか返せない相手は、数字を自分のものにできていないかもしれません。「この赤字は、構造的なものですか。それとも見直すべきものですか。」——立ち上げ期の数字を前に、そう問える相手かどうかは、判断のスピードと安心感を大きく左右します。私たちも、自分たちで試して整えてきたこうした数字の見方を、運用とあわせてご相談に乗っています。

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