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経営ノウハウ

撤退ラインは、事業を始める前に決めておく — 感情で損切りが遅れないための設計

新しい事業を始めるとき、多くの人は「どうやって伸ばすか」から考えます。けれど、始める前に一緒に決めておくべきものがもう1つあります。撤退ライン——どうなったら畳むかです。

先に結論をお伝えします。撤退の判断は、事業がうまくいっていない渦中で考えると必ず遅れます。 だから私たち株式会社隼は、事業を立ち上げる前に「どの数字まで落ちたら見直す・撤退する」を先に紙に書いておき、毎月それに照らして機械的に判断する運用にしています。感情が最も邪魔をする局面で、感情を使わずに決めるための仕組みです。

なぜ撤退ラインは「始める前」に決めるのか

撤退の判断が難しいのは、判断が必要になる時ほど冷静でいられないからです。赤字が続いている事業ほど、これまでかけた時間やお金が惜しくなり、「あと1ヶ月やれば」「次の施策で変わるかも」と根拠の薄い希望で続けてしまいます。判断が必要な瞬間に、判断能力が一番落ちている——これが撤退が遅れる正体です。

だから私たちは、まだ冷静でいられる「始める前」に撤退ラインを引きます。事業がまだ1円も動いていない時点なら、埋没したコストも思い入れもゼロなので、冷たい目で「この数字を割ったら続ける意味がない」と決められます。始めてしまってから決めようとすると、その基準自体が甘くなります。撤退ラインの精度は、いつ引くかでほぼ決まるというのが、実際にやってみて分かったことです。

事業を始める前に決めた撤退ラインは冷静で厳しく引けるが、始めた後に決めようとすると埋没コストと思い入れで基準が甘くなることを左右で比較した図

1本ではなく、3本のラインを引く

撤退ラインというと「この赤字を超えたら終わり」という1本の線を想像しがちですが、私たちは1本では運用していません。死守ライン・標準ライン・理想ラインの3本を先に引いています。1本だけだと「セーフかアウトか」の二択になり、その手前の「危ないが、まだ立て直せる」段階を見逃すからです。

3本の意味はこうです。理想ラインは「この事業は伸びている」と胸を張れる水準。ここに乗っていれば投資を増やす判断ができます。標準ラインは「想定どおり」で、続けて問題ない水準。死守ラインは「これを下回ったら撤退を本気で検討する」最終防衛線です。大事なのは、この3本を金額や件数といった具体的な数字で、始める前に決めきっておくことです。曖昧な「なんとなく好調・不調」ではなく、毎月どのラインに着地したかが一目で分かる形にしておきます。

撤退ラインを理想ライン・標準ライン・死守ラインの3本に分け、それぞれ何を意味しどう判断につなげるかを示した番号付きリストの図

毎月、どのラインに乗ったかで機械的に判断する

3本のラインを引いたら、運用は驚くほど単純になります。毎月の締めで、その事業の利益がどのラインに着地したかを確認し、着地したラインに応じてあらかじめ決めた行動を取るだけです。ここで新しく考え込まないのがポイントで、判断はラインを引いた時点で終わっています。

私たちが握っている判断軸は、着地ラインと「回復の兆しがあるか」の2軸で行動を決めることです。理想・標準に乗っていれば継続、あるいは投資を厚くする。死守ラインを下回っても、明確な回復の兆し(新しい流入経路が育ち始めた等)があれば期限を切って様子を見る。兆しもなく死守ラインを割り続けたら、これは撤退の実行です。この「割った回数」も先に決めておきます。私たちは、死守ラインを連続で割った月数をカウンターとして持ち、規定回数に達したら自動的に撤退の議題に上げる運用にしています。1回の悪い月で慌てず、しかし引きずりもしない、という線引きです。

毎月の着地ラインを縦軸、回復の兆しの有無を横軸にとり、継続・投資強化・期限付き様子見・撤退という4つの行動に振り分ける2軸4象限の判断マトリクスの図

明日、自分の事業で試せること

ここまでをふまえて、すぐにできる形にします。今動いている事業を1つ選び、「この事業は、どの数字を何ヶ月割ったら畳むのか」を紙に1行で書いてみてください。 すぐに書けないなら、それは撤退ラインが存在しないということで、いざという時に感情で判断することになります。

次に、その1行を3本に分けます。撤退の死守ラインだけでなく、「この水準なら想定どおり」「ここまで来たら投資を増やす」も一緒に決める。3本そろって初めて、毎月の数字が「良い・普通・危ない」のどこにあるかを迷わず読めるようになります。新しい事業を増やす前に、まず1本、撤退ラインを紙に書く——これが、複数の事業を並行して抱える私たちが毎回やっている、地味で効く一手です。

外注先や事業パートナーを選ぶときも、撤退の話ができるか

最後に、事業を誰かと組んで始めようとしている方へ。撤退ラインの話ができる相手かどうかは、その相手を見極める分かりやすい目印になります。「この取り組みは、どうなったら撤退という判断になりますか」と聞いてみてください。数字で経営している相手なら、何をどの水準まで割ったら見直すかを、感情ではなくルールで説明できます。伸ばす話はできても畳む話になると言葉が濁る相手は、うまくいかなかった時の設計を持っていないかもしれません。私たちは、自分たちの複数事業で実際に握っているこうした撤退ラインの設計を、運用のご相談とあわせてお話ししています。

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