結論: 画面を操作する自動化は、手順より先に「前回値」を消す
動画編集まわりの作業を自動化するとき、最初に潰すべきは手順の書き方ではありません。指定しなかった項目が、前の案件の設定のまま実行される——私たちはこれを「前回値」と呼んで、真っ先に潰す対象にしています。
弊社は撮影した素材の取り込みから編集者へ渡す形にまとめるまでを、編集ソフトの画面操作を機械にやらせる形で自動化しています。作っている最中に分かったのは、間違いの原因が手順の抜けではなく、道具の側に残っていた前回の状態だった、ということでした。人は毎回それを目で見て直しているので、手順書には書かれません。機械は書かれていないものを直しません。この記事では、実際に止まった場面を3つ開いて、画面を操作する自動化を始める前に何を確かめているかを書きます。
画面を操作する自動化とは何か? 専用の拡張機能とは何が違うのか?
答えを先に言うと、人がマウスとキーボードでやる操作を、そのまま機械にやらせる方式のことです。ソフトの内部に組み込む専用の拡張機能とは、作る場所が違います。
弊社は最初、編集ソフトの拡張機能として作りました。素材のフォルダを指定すると取り込みまで一気に済む、という設計です。ところが実際に読み込ませると、パネルが真っ黒のまま何も表示されない。ソフトのバージョンとの相性の問題で、設定をいくつ変えても直りませんでした。そこで方針を変え、人がやるのと同じ順序で画面を操作させる形に切り替えたところ、その日のうちに取り込みが通りました。内部に踏み込まず、表から触る。この切り替えは、拡張機能を待たずに前へ進めるという意味で正解でした。ただし、表から触る方式には表から触る方式の落とし穴があります。
なぜ同じ手順なのに、別の案件のフォルダに書き出されるのか?
答えを先に言うと、保存先などの設定欄が、ソフト全体で前回の値を覚えているからです。理由はシンプルで、人が使うときに便利だからこそ、その仕様が入っているからです。
編集済みのデータを1つにまとめて書き出す機能は、保存先を画面で選びます。この保存先は、案件ごとではなくソフト全体で記憶されます。つまり別の案件を触った直後に実行すると、前の案件のフォルダが入ったままになる。人が操作していれば、表示されたパスを見て「違う」と気づいて直します。この「見て直す」は手順書のどこにも書かれていない補正です。機械は書かれていない補正をしないので、指定しないかぎり前の案件のフォルダへ書き出します。弊社はここを工程の中で最も重い確認に格上げし、毎回、保存先を明示して指定し直してから実行すると決めました。

手順どおりに動かない日は、何が抜けているのか?
答えを先に言うと、手順ではなく前提が抜けています。弊社が実際に止まったのは、書き出しの機能そのものが使えない状態だったときでした。
編集データをまとめて書き出す機能は、編集の並べ場(シーケンス。素材を時間軸に並べる作業台)が1つも無いと使えません。案件によっては、渡されるひな形に並べ場が入っていない。人が編集していれば必ず作るので、誰も前提だと思っていなかったのです。自動化してはじめて、前提が満たされない案件が存在すると分かりました。対策は、取り込みの直後に並べ場を1つ作る工程を手順の前に足すこと。もう1つ、マウスのクリックが他のアプリの半透明の表示に遮られて空振りすることも分かり、クリックをやめてキーボードのショートカットに置き換えました。画面を触る自動化は、画面の状態そのものが前提になる。

どこまでを画面操作の自動化に任せているか?
答えを先に言うと、絞り込んだうえで毎回同じ画面で終わり、指定しない項目が残らず、間違えても戻せる作業だけに任せています。作業の一覧から順に落として、残ったものが対象です。
弊社が今この方式に載せているのは、素材の取り込み・並べ場の作成・受け渡し用のデータ書き出しまでです。書き出した後は、できたファイルの大きさを元の素材と数値で照らして確認します。編集者への連絡は自動化していません。相手のいる連絡は、送る前に人が読む形のまま残しています。試し実行と検算を挟む考え方は本番の前にもう一段挟む仕組みに、途中で止まったときに何回まで再試行するかの線引きは運用でつまずいた5つの落とし穴に書いたとおりで、この工程でも同じ線を使っています。

なお、動くものを作っても本番に載せないと決めた作業もあります。判断の質が要る編集そのものは、仕組みを作ったうえで使わないと決めました。画面操作の自動化が向くのは、判断のいらない繰り返しの部分だけです。
明日から試せる、「前回値」の消し方
自動化に手をつける前に、今日ひとりでできることが1つあります。いま人がやっている定型作業を1つ選び、その画面を開いて、前回の値が入ったままになっている欄を書き出してみてください。保存先、出力の設定、対象の期間。目で見て毎回直している欄が、そのまま自動化の事故の候補になります。
書き出せたら、その欄を手順書に「毎回明示して指定する」と書き足す。それだけで、自動化してよい作業とまだ危ない作業の線が見えてきます。私たちも、前回値を全部書き出すまでは自動化の範囲を広げないことにしています。