HAYABUSA INC.
AI活用AI活用事例 #10

社員が生成AIを使ってくれない——渡すのは道具でなく「触れない範囲」

結論: 使われない原因は意欲ではなく「触れない範囲」の不在です

生成AIを自分以外の人に渡すとき、最初に用意するのは研修でも手順書でもありません。触ろうとしても触れない範囲を、約束ではなく仕組みで先に作ることです。

弊社も自分以外の1人に渡すまでに、初日で止まる・1か月動かないまま気づかない・提出されたものに事故の芽が入っていた、という3つを順番に踏みました。どれも本人の意欲や理解度とは関係のない場所で起きています。以下はその実話です。

自分の設定をそのまま渡すと、なぜ初日に止まるのか?

答えを先に言うと、自分用の設定には自分の環境にしか存在しない置き場所が書き込まれているからです。

弊社は最初、自分が使っているAIの指示書をそのまま渡そうとしました。ところがその指示書は、自分の機械にあるファイルや社内の仕組みを前提に「まずここを見る」と書いてある。渡した相手の環境にはそれが1つもありません。相手のAIは存在しない場所を探しにいき、何も見つからないまま説明だけを返します。動いていないのに、エラーも出ません。

そこで渡す相手用の指示書を、別に1枚書き直しました。中身は相手の役割・話し方の希望・やってはいけないこと・迷ったときの止まり方だけ。自社の仕組みへの参照は全部落としました。指示書の書き方そのものは社内AIのルールを日本語1枚で決める記事に書いています。

自分用のAI指示書をそのまま渡した場合と、相手用に1枚書き直した場合の違いを比較した表

相手側のAIが「できました」と言うのは、なぜ危ないのか?

AIは、渡された範囲の中だけで答えを作ります。作業が終わったかどうかも例外ではありません。

実際に起きたのはこうです。相手側から「準備は完了した」と報告が来ました。ところが弊社が記録を直接見にいくと、接続の方式が合わずに途中で止まっており、必要なファイルは1つも手元に来ていませんでした。しばらくして相手のAI自身が誤りに気づいて訂正しています。本人が嘘をついたのではなく、確かめずに完了と言う癖がAI側にあっただけです。

さらに悪かったのは、その後です。渡したあと弊社は進捗を本人に聞くのをやめてしまい、約1か月、提出が1件も無いことに気づきませんでした。気づいたのは、記録を機械的に数え直したときです。人に聞く代わりに数える。それだけで1か月が数分になります。この「渡した範囲の外は見えない」という性質は対応済みかの確認をAIに聞くと間違える記事でも書きました。

触れない範囲は、約束ではなく仕組みで作る

弊社が決めた線引きは1つです。壊されたら困る場所は、注意書きではなく権限で閉じる。

具体的には、相手に渡したのは「変更案を提出するところまで」です。提出されたものを本番へ合流させる操作と、公開する鍵は渡していません。加えて、最初に触ってよい範囲を画面の表示まわりに限定し、お金の計算とデータの構造には近づけない形にしました。「気をつけてください」と書いた紙は、忙しい日に必ず飛ばされます。飛ばせない形にしておけば、注意力を使わずに済みます。

段階守ること
提出まで渡す変更案は本人が作る
合流は自分本番へ入れる操作は自分が行う
公開の鍵は渡さない反映は自分の手元で行う

最初に触ってよいのは表示まわりだけ。お金の計算とデータの構造には手が届かない範囲にします。

この絞り方には副産物がありました。範囲が狭いと、相手は「壊すかもしれない」と怯えずに手を動かせます。使ってもらえない原因の一部は、どこまでやってよいか分からない不安です。範囲を閉じることは、制限であると同時に安心材料でもありました。

提出されたものは、必ず自分以外の目に通す

初めて提出された2件は、両方ともそのままでは通せませんでした。

内容は表示まわりの小さな追加でしたが、確認すると、支払い済みとして確定した記録が画面から消せてしまう作りが混じっていました。悪意でも不注意でもありません。頼んだ機能だけを見れば正しく、隣にある「消えると困るもの」は指示に書いていなかっただけです。弊社は自社で作ったものにも同じ手順を掛けていて、別のAIに粗探しをさせてから通す運用にしています。この2件も指摘と修正を何度か往復して、ようやく本番に反映しました。

正直に書くと、この往復はこちらの手間としては小さくありません。相手が慣れるまでは、こちらの確認作業が一時的に増えます。渡せば楽になる、とは限りません。それでも往復を省かなかったのは、お金に関わる記録は一度壊れると元に戻せないからです。人に残す判断の決め方は承認を勘で減らさず卒業させる記事にまとめています。

明日からの最初の一歩

渡す前に決めるのは、次の4つだけです。

相手にAIを渡す前に決める4項目を並べたチェック表

まず、相手用の指示書を1枚だけ書いてください。自分の設定はコピーしない。次に、最初に触ってよい場所を1つに限り、それ以外は権限で閉じます。3つ目に、提出から本番までの経路を1本に固定し、合流させる操作は自分の手元に残します。4つ目に、進捗を聞くのをやめて、提出の件数を数える日を月に1回決めておきます。

弊社もまだ、社内の全員に広がってはいません。今の段階は2人目までで、相手の負担感が減ったとも言い切れません。それでも、渡してから決めるより、渡す前に閉じておくほうが早いことは実際に確かめられました。最初の1枚を書くところから始めてみてください。

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