HAYABUSA INC.
AI活用AI活用事例 #1

メールが多すぎて大事な1通を見落とす——先に決めるのは「残す側」

結論: 受信箱の仕分けは、消す条件ではなく「残す側の定義」から書きます

メールが多すぎて大事な1通を見落とす。この状態を直すとき、私たちが最初に書いたのは消す条件でした。それでは終わりませんでした。弊社の結論は1つです。自動で外してよいものを数える前に、絶対に受信箱へ残すものを先に書く

きっかけは、弊社代表の受信箱を4日分だけ数えてみたことでした。届いていたのは200通を超えていて、そのうち人が読んで判断する必要があったのは2通だけでした。取引先が直接書いたメールと、業務委託先から届いた請求書です。残りは銀行・カード・決済サービス・ネットショップ・ワンタイムパスワード(1回限りの確認用番号)・広告メール。どれも読まなくても仕事は進みます。

この記事は、弊社のAI活用事例集の1本目として、受信箱の仕分けをどう分担したかを開いていきます。何をAIから外し、何を人に残し、なぜそう分けたのか。順に書いていきます。

届いたメールを機械で外す層と人が読む層に絞り込む4段階の図。全体から送信元で機械的に外し、残った曖昧なものだけを人が見て、最後に判断が要る少数の連絡だけが残る

なぜ「AIに全部読ませて重要度を判定させる」を最初にやらなかったのか?

答えを先に言うと、間違えたときの損が両側で釣り合わないからです。広告メールが1通受信箱に残っても、実害は数秒です。取引先の1通が外に出てしまえば、返信が数日遅れます。同じ1件の誤りでも、重さが違う。この非対称を先に見たので、判定の精度を上げる方向には進みませんでした。

もう1つ理由があります。4日分の内訳を実際に目で見たら、大半は判定が要らないものでした。銀行の入出金通知も、決済サービスの日次売上も、送信元のアドレスを見るだけで機械的に仕分けられます。しかもそれらは、お金の動きを見張る仕組みや売上を自動で取り込む仕組みが、すでに別の場所で処理していました。同じ情報が2つの経路で届いていただけです。

判定が要らないものにAIを使うのは、精度の問題ではなく順番の間違いです。 そこで設計を2段に分けました。1段目は送信元だけで確実に外せるものを機械的に外す層。2段目は、それをすり抜けた曖昧なメールだけをAIが読んで重要度を判定する層。今のところ動いているのは1段目だけで、2段目にはまだ着手していません。1段目で受信箱が静かになったので、2段目を作る理由がまだ出てきていないからです。

「残す側の定義」には何を書いたのか?

私たちが先に書き出したのは3種類です。1つ目は人が直接書いた連絡、2つ目はお金と期日が動くもの、3つ目は送信元が混ざる窓口。 この3つに当てはまるものは、どれだけ量が多くても受信箱に残します。

3つ目が実務では一番効きました。自社の問い合わせ窓口のアドレスには、決済サービスの自動サマリーも届きますが、人からの営業や質問も同じアドレスに届きます。送信元でまとめて外すと、後者が一緒に消えます。そこでこの窓口だけは送信元では外さず、決まった件名と一致したときだけ外す形にしました。同じ判断をもう1か所で使っています。ファイル共有サービスの通知です。通知そのものは自動ですが、業務委託先が請求書や撮影素材をアップロードした合図もここに混ざるため、送信元ごと外すのはやめました。

「残す側の定義」を先に書くと、消す側の条件は驚くほど単純になります。残すものが決まっているので、それ以外は迷わず外してよい。逆の順番——消す条件から書き始めると、1つ条件を足すたびに「これで大事なものまで消えないか」を毎回考えることになり、手が止まります。実際、私たちも最初はその順で書き始めて止まりました。

4日間で200通を超えるメールが届き、人の判断が必要だったのは2通だけだったことを示す数字の図。差が大きいほど選別の設計が効くことを表す

仕分けの間違いは、どう吸収しているのか?

答えはシンプルで、外したメールを1通も削除していないからです。受信箱から外したものは、すべて分類用の名札を付けて別の場所に保管しています。消す仕分けではなく、置き場所を変える仕分けにした。

理由は、仕分けの間違いが必ず起きると分かっているからです。新しい取引先の1通目が自動通知と同じ形式で届くことも、条件の書き方を私たちが間違えることもあります。削除にしていれば、その間違いは取り返しがつきません。保管であれば、間違いは「探せば見つかる」で済みます。仕組みを止めずに直せる状態を保てるかどうかが分かれ目です。

これは弊社がAIに勝手にやらせない操作の線引きを決めた記事で書いた考え方と同じです。後戻りできる作業は任せる。後戻りできない操作は人が画面で実行する。削除は後者に入るので、仕分けの自動化からは最初から外してあります。仕分けを任せることと、消すことを任せることは別の話です。

すり抜けたメールは、どう追いかけるのか?

答えを先に言うと、まとめて作り直さず1通すり抜けたら条件を1個だけ足す運用にしています。

正直に書くと、今もすり抜けているものがあります。自社の窓口アドレスから届く宣伝メールで、件名が毎回変わるため、送信元でも件名でも捕まえられていません。これは未解決のまま残しています。ここで全体の条件を作り直すと、うまく動いている部分まで壊れる可能性があるからです。すり抜けが積み上がって受信箱が再び埋まり始めたら、そのときに2段目の判定を足す。それまでは1個ずつ足して追いかけます。

もう1つ、意識的にやめたことがあります。仕分けの結果を毎日どこかに通知することです。仕分けが動いた件数を毎日受け取っても、読んで何かを決めるわけではありません。読む相手がいない出力を増やすと、今度はその通知が新しいノイズになります。この考え方は自動化の上限を「読み手の定員」で決めた記事に書きました。仕分けを増やしても、人が読む場所は増やさない。

受信箱の仕分けを設計する4段階の手順図。1週間数える、機械で外せるものだけ外す、残す側を先に書く、すり抜けは1個ずつ足す

見落としは、注意力の問題ではないのか?

答えを先に言うと、量が一定を超えた時点で注意力の話ではなくなります。私たちも以前は、見落としが起きるたびに確認の回数を増やす方向で対処していました。それで減った実感はありませんでした。

見落としの多くは、見ようとしなかったから起きるのではなく、見るべき1通が同じ見た目のもの200通と並んでいるから起きます。並べ方を変えないまま注意を増やしても、増えるのは疲労だけです。同じことを別の道具でも経験しました。社内の連絡ツールで返信を取りこぼしていた原因が、注意不足ではなく画面に最初から出ていない場所にあったという件です。詳しくは見落としを「構造の死角」として扱った記事に書いています。

私たちが変えたのは、人の集中力ではなく、人の前に並ぶものの数です。 受信箱に並ぶものが減れば、そこに残った1通は自然に読まれます。

明日からできる最初の一歩

道具も設定も要りません。過去1週間の受信箱を開いて、自分が実際に返信または判断した通数だけを数える。 これだけです。10分もかかりません。

数えると、たいていの場合は届いた量と判断した量の差が大きく開きます。その差が、仕分けを設計する価値がある量です。差が小さければ、そもそも仕分けは要りません。

数え終えたら、次に3行だけ書きます。受信箱に必ず残すものは何か。弊社の場合は、人が直接書いた連絡・お金と期日が動くもの・送信元が混ざる窓口の3つでした。会社によって3行の中身は変わります。ここを先に書いておけば、条件を1つ足すたびに迷うことがなくなります。消す条件を考え始めるのは、この3行が書けてからで間に合います。

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