AI活用AI活用事例 #12

AIの営業メールに混ざる「やっていない実績」——一文一出典で止める

隼 編集部

YouTube運用とAI業務支援の担当

AIの営業メールに混ざる「やっていない実績」——一文一出典で止める

結論: 対外に出す文面は、読みやすさではなく「一文一出典」で確認します

AIに書かせた営業メールや提案資料を確認するとき、私たちが見ているのは文章の出来ではありません。自社の実績や運用に触れた一文ごとに、出典を1つ名指しできるかどうか。見ているのはそれだけです。名指しできない一文は、直さずに削ります。

理由はシンプルで、AIが混ぜる嘘は、文章の粗い場所ではなく、いちばん説得力のある場所に出るからです。読みやすさを基準に確認すると、その一文は真っ先に合格してしまいます。

AIはなぜ、やっていないことを自社の実績として書くのか?

答えを先に言うと、文章の説得力を補うためです。AIは「営業メールとして成立する文章」を作ろうとします。成立させるには根拠が要る。ところが手元の材料に根拠が足りないとき、AIは書けないと止まるのではなく、それらしい根拠を埋めて文章を完成させます。

埋められるのは、たいてい自社の運用の話です。社外の統計には出典が要りますが、「弊社ではこうしています」は誰も検証しないまま通ってしまう。書き手のAIから見れば、最も安全に文章を締められる材料が自社の実態というわけです。

私たちがそれを見抜けなかった理由も同じところにあります。自社の話なので、読んでいて違和感が出にくい。文章の出来で確認している限り、この種の一文は止まりません。AIが書いた文章の中身が薄くなる仕組みはAIの文章が不自然なのは素材が空だからでも書きましたが、対外文面の場合は薄さではなく、事実の嘘として外に出ます。

私たちが実際に混ぜてしまった3種類

営業に出す文面と、先方向けの分析メモの下書きをAIに任せていた時期がありました。仕上がりを代表が読み返したときの反応は一言、嘘が混ざっている、でした。混ざっていたのは次の3種類です。

1つ目は運用の体験です。制作が止まる原因は企画切れではなく撮影の日程にあり、撮影をまとめることで本数を保っている——そういう趣旨の説明が入っていました。筋は通っています。ただ、社内でそう検証した記録はどこにもありませんでした。

2つ目は担当の規模です。実際より多くの案件を抱えているように読める書き方になっていました。数字の誇張ではなく、範囲の広げ方による誇張です。3つ目は効果の因果で、ある形式の企画が相談の申し込みにつながっている、という因果が根拠なしに断定で書かれていました。

3つとも、文章としては最も具体的で、最も自信のある一文でした。相手が商談で確かめたくなるのも、ちょうどこの3つです。

「一文一出典」に変えて、確認の順番を入れ替えた

対外文面の一文ごとに出典を1つ名指しできるかで判定するという原則を大きく示した図

変えたのは文章の直し方ではなく、確認する順番です。以前は全体を読んで、気になった表現を直していました。今は先に、自社の実績・運用・効果に触れた一文をすべて拾い出します。そのうえで一文ごとに出典を1つ名指しします。名指しできた一文だけを残し、できなかった一文は表現をやわらげずに削る——この順番です。

出典として数えるのは3つだけと決めました。1つ目は自分たちで全期間分を集計した分析、2つ目は請求や契約の台帳、3つ目はその場で取得し直した実データです。記憶、業界の一般論、「たぶんそうしているはず」は出典に数えません。ここを曖昧にすると、名指しの形だけ整って中身が戻ってしまいます。

削ると文章は短くなります。短くなったぶんを別の表現で埋めたくなりますが、埋めません。埋めた時点で同じことが起きるからです。

取引先から預かった数字は、自社の提案資料に使わない

出典を名指しできるかと、自社の事実か預かった事実かの2軸で対外文面の一文を4つに仕分けた図

もう1つの線引きが「預かった数字」です。運用の中では、取引先から社内の数値を共有していただくことがあります。申し込みの内訳や、社内で管理している達成率のような数字です。これらは私たちの提案資料には載せません。

載せてよいのは、誰でも見られる公開情報と、その取引先から掲載の許可を得たものだけです。理由は2つあります。1つ目は、預かった数字はこちらの成果ではなく、相手の経営情報だからです。2つ目は、その資料を渡す相手の中に、その取引先と同じ業界の会社が含まれうるからです。

正直に書くと、この線引きは最初から引けていたわけではありません。資料の初稿には預かった数字がそのまま入っていました。今は、自社の事実かどうかと、出典を名指しできるかどうかの2軸で仕分けています。預かった数字は、出典が明確であっても載せない側に置いています。出典があることと、出してよいことは別の判断です。

数字は「送る直前」に取り直す

出典が正しくても、鮮度が落ちていれば相手にとっては誤った情報です。作成から送付までに数日あく文面では、数字を送る直前に取得し直すことにしました。古い数字のまま出すと、相手が確認したときだけ食い違います。こちらが気づく機会はありません。

取り直したときに数字が取れない場合もあります。そのときは前回の値を流用せず、その一文ごと落とします。数字が取れなかったことを0件や横ばいとして書かない、というのはAI導入の効果を測る仕組みでも同じ扱いにしています。取れなかったという事実と、変化がなかったという事実は別のものです。

人に残した部分

自動で止められるのは、出典を名指しさせる工程までです。名指しされた出典が本当にその一文を支えているかどうかの判定は、今も人がやっています。もっともらしい出典を付けて通すことは、AIにはできてしまうからです。

宛先が合っているか、その相手にその話をしてよいか、そもそも送るかどうかの判断も人に残しました。AIの答えがこちらの渡した材料の範囲を出ないという性質は対応漏れの確認をAIに聞くと間違えるで書いたとおりで、対外文面でも同じです。材料の外にある事情は、AIには見えていません。

できていないことも書いておきます。出典の確認は人の目が最後の関門のままで、機械が止めてくれる形にはなっていません。飛ばそうと思えば飛ばせる確認が1つ残っている、という状態です。

明日からの最初の一歩

対外文面を送る前に確認する4項目を並べたチェック表の図

直近でAIに手伝わせて外に出した文面を、1通だけ開いてみてください。自社の実績・運用・効果に触れた一文に印を付け、印の数だけ出典を名指ししてみる。それだけで十分です。

印を付けた一文のうち、名指しできない文が1つでもあれば、確認のやり方を変える理由としては足ります。私たちの場合は、最初にこの確認をかけた1通から、運用の体験・担当の規模・効果の因果の3種類がまとめて出てきました。

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